羊の話

羊と人類

最初の出会い

人間と羊が初めて出会ったのは遠い原始の昔、中央アジアの高原だったろうといわれています。
当時羊は、もちろん野生の獣。原始の人々が狩猟の旅の途中、出会ったのが野生の羊の群れだったのです。
そのころ人々は、狩りの獲物の肉を食べ、毛皮を剥いで敷物や寝具とし、体にまとい、保温の手立てとしました。そうした生活の中で、羊こそが食住両面に役立ち、放牧に適する動物として選ばれたのだと思われます。

牧羊の始まりは紀元前6,000年

牧羊は紀元前6000年頃、中央アジアで始まっていました。のち紀元前3000年には、人類文明発祥の地パビロニアで、すでに毛織物が一般に着用されていたという記録があります。
中央アジアで家畜として飼育された羊は、その後、古代ギリシャ、ローマへと伝えられ、大衆の間に浸透し、常用されるようになりました。そして、羊毛及び、毛織物の技術は、大いに改良されたばかりでなく、ローマ帝国の発展と共にこれらの技術はヨーロッパ各地に伝えられ、のちの羊毛工業発展の素地となったのです。

山羊と羊

ウールとヘアー

羊と似ている動物に山羊(やぎ)がいます。山羊も羊もツノがあり(羊にはツノがない種類もありますが)、足のヒヅメが割れていて、全く同じように見えます。ただ、明らかな違いは、山羊にはアゴヒゲがあり、羊には見当たらないということです。
ヒゲの有無はつまらないことのようですが、実は、羊だけが衣料や敷物用原料として育てられてきた秘密がここにあるのです。
山羊の毛はヘアー(hair)といって、アゴヒゲに代表されるように硬くてツヤがあり、人間の髪の毛に近いものです。羊の毛は、ウール(wool)といって、もっと細く、よくちぢれ、ふっくらと感触の優れたものだからです。

羊

羊(ひつじ)

山羊

山羊(やぎ)

感触抜群のウール

人間ははじめから家畜として現在のような柔らかい毛に覆われた羊を飼っていたわけではありません。中央アジアの高原に現在もいる野生の羊のように、褐色の硬い毛をもった羊だったのです。
野生羊は、年間を通じて柔らかい毛に覆われているのではなく、秋から冬にかけての寒い時期に、体の表面の硬い、長い毛の下に柔らかい毛を生やします。このような羊を季節と関係なく、全体に柔らかい毛が生えるように変えたのは、人間の長い長い時間をかけての苦心と努力だったのです。

世界の羊

全世界で約3000種

羊の種類はおよそ3000種にもなります。世界中で飼育されている数は、約11億頭とされています。羊毛を世界に供給しているので有名なのは、オーストラリア・ニュージーランド、南アフリカ、ウルグアイ、ブラジルなどの国々です。
オーストラリアは品質が衣料に向いているメリノ種などが主力で、生産量も多いので有名です。ニュージーランドの羊毛は、オーストラリアのメリノ種よりも繊維が太く長い”山岳種”を元に交配した”雑種・クロスブレッド”が中心です。野生に近い羊は、”末改良種”と呼ばれ、中国、モンゴル、ソ連などで見ることができます。
これらの羊のいずれもが、生後1〜2年から毎年、春になるとハサミで年1回のいわば散髪を受け、原毛を提供してくれます。羊1頭からいちどに刈り取られる羊毛の量は、およそ2・5kgから3kgほどです。不思議なことに、これはおよそ、ふとん1枚分の中わた量に近い数字なのです。

羊の種規と分布

世界の羊の分布状況は、5頁のイラストの通りです。イラストの羊の頭の大小が、その国の分布頭数の多い少ないを示しているわけです。世界中の羊を大別しますと次のように3つの系統に区分することができます。

①メリノ種

世界中で生産される羊毛のうちの40%がメリノ種に属するとされています。世界最大の生産国のオーストラリアでは、全体の約75%がメリノ種です。
メリノ種のウールの特徴は、繊維の太さが平均していて、しかも他の種類の羊毛に比べて細く、しかも規則正しいちぢれがあるので細い糸を紡(つむ)ぐのに適しています。このため、衣料用羊毛として代表的な品種といえます。主産地はオーストラリア、南アフリカなどです。

②雑種・クロスブレッド

2種類以上の羊を交配して改良し、メリノ種とは違った品質の毛を作り出します。この種の羊毛は、ストロングウールともいって、オーストラリアのメリノ種に比べると、繊維が太く、丈夫で長いのが特徴です。またメリノ種のちぢれに比べて不規則で大きいちぢれになっていますので、カーペットやふとん、手編毛糸などに向いているといえます。
世界の羊毛の約40%が、この種類に属します。また、ニュージーランドが生産する羊毛の、およそ90%がこれらストロングウールなのです。

③末改良種

改良のための交配がされなかった種類で、野生に近い羊です。中国やモンゴル、ソ連などで見ることができます。